2014年のメモ3

私には地球を取り巻く巨きな巨きな蛇の環が見えはじめた。すべての対極性をわれと我が尾を嚥み続けることによって鎮める蛇。すべての相反性に対する嘲笑を響かせている最終の巨大な蛇。私にはその姿が見えはじめた。

相反するものはその極致において似通い、お互いにもっとも遠く隔たったものは、ますます遠ざかることによって相近づく。蛇の環はこの秘義を説いていた。肉体と精神、感覚的なものと知的なもの、外側と内側とは、どこかで、この地球からやや離れ、白い雲の蛇の環が地球をめぐってつながる。それよりもさらに高方においてつながるだろう。

私は肉体の縁と精神の縁、肉体の辺境と精神の辺境だけに、いつも興味を寄せてきた人間だ。深淵には興味がなかった。深淵は他人に委せよう。なぜなら深淵は浅薄だからだ。深淵は凡庸だからだ。

 

三島由紀夫 『F104』より